「重版出来」は全ての働く人に見てもらいたいドラマ

「重版出来」は全ての働く人に見てもらいたいドラマ

皆さん「重版出来」というドラマをご存知でしょうか?原作は『月刊!スピリッツ』で連載されいる松田奈緒子さんの漫画。脚本は一昨年話題になった野木亜紀子さん。主演は黒木華、脇にはオダギリジョー、小日向文世、松重豊、生瀬勝久、ムロツヨシ、坂口健太郎、荒川良々などなど、かなり豪華なメンバーが出演されています。舞台は週間コミック誌の編集部。新人の女性編集者「黒沢心」を主人公に、漫画家や編集、営業、書店員、色々な人の関わりの中、漫画が出版されていく流れを描いています。

Amazonのプライムビデオで無料で視聴できるので、たまたま見たのですが、このドラマめちゃくちゃ良いんです!!!

Source mensnonno.jp|坂口健太郎のスーツの着こなしをチェック!ドラマ『重版出来!』完成披露 http://www.mensnonno.jp/news/2016/04/12/26148/

登場人物の描写が、とても丁寧で生きている。

物語は主人公である黒沢心を基軸に描かれていくのですが、それが中心で描かれているかというと決してそうではなく、むしろ、主人公を取り巻く人物たちの人生を丁寧に描くことで物語が進んでいきます。残念なドラマってストーリのために登場人物が都合よく使われてしまって、どんどんリアリティが失われていくような傾向があるように思うのですが、このドラマは真逆で、本当に登場人物全てが魅力的なんです。

魅力的な人物たち。

例えば、坂口健太郎が演じる営業部所属の小泉純。希望していない部署に配属されて営業先では「ユーレイ」と呼ばれてしまうほど希薄な存在。「自分がやりたいことはこれじゃない」そう思って、どの仕事にも本気にならずに過ごしていた人物なのですが、たまたま主人公・黒沢心と一緒に仕事をすることで徐々に変化していきます。柔道一筋で元五輪代表候補だった黒沢心のとにかく真っ直ぐで、分け隔てなく人とぶつかっていく仕事の進め方に付き合っていくと、それまで自分では「変わらない」と思い込んでいた環境や状況が変わっていくことを目の当たりにします。

ドラマ内の漫画「タンポポ鉄道」を各書店に黒沢心と一緒に売り込みに行くのですが、黒沢心はダメ元でマンガのコーナだけではなく、別の棚である鉄道コーナーに置いてもらうよう説得すると、その熱意が受け入れられ書店員が自主的に協力してくれるようになります。その経験を通して小泉は、何も変わらない状況を作り出していたのは自分がそう思い込み行動に移さないでいたことに気づき始めます。それから小泉は初めて自主的に上司に営業戦略の提案もするのですが、ここで憎いのは、小泉の上司、岡 英二(生瀬勝久)が、その部下の変化を見逃さないんですね。その提案を受け入れ、大々的に販売展開していきます。コミックはその甲斐あって売上を伸ばし(まぁ、ここはドラマですね)、最終的にはドラマのタイトルでもある重版出来(増刷すること)になります。

「成長」というより「変化」を描いている。変化は時に残酷。

こんな感じで、基本一話一話ごとに焦点が当たる人物が変わり、時に交錯しながら物語が進んでいきます。そこには共通してなんらかの「変化」が生まれていくのですが、小泉純の話のように、どれも成長していくというようなプラスの話ではなく、さまざまな「変化」が訪れます。このドラマの素晴らしい所は、その「変化」が上っ面のものではなく、非常に人の本質というか普遍的な部分を描いているところ。変化」というのは今と変わるということなので、言い方を変えれば今の自分を否定するということでもあるわけです。例えそれが成長という変化だとしても、人間というのは不思議なもので、ホメオスタシス(恒常性)が働いてしまうというか、そこに対して無意識下で拒絶反応が生じてしまうような所があるように思います。おそらくですが、人間という種が生存競争を生き延びていく中「変化」というのはリスクでもあるので、それを基本避けるようにプログラム化されているような所があるのではないでしょうか。ただ、そのリスクを乗り越えないと可能性も生まれない。時に残酷とも言える、その自己否定という変化を非常に象徴的に描いているのがムロツヨシ演じるアシスタントと新人漫画家とのエピソードなのですが…ちょっとこれはネタバレしてしまうともったいない所もあるので、興味を持った方はぜひ見て欲しい…めちゃくちゃ泣けます。

それでも変化へと自分を開く勇気。

ドラマの最終話、一番のベテラン作家、三蔵山龍(小日向文世)は、ある賞を受賞し、そのスピーチで今まで30年連載していた漫画を終えることを伝えます。ただ、それは筆を折るということではなく、さらに面白い漫画を描くため新しい挑戦をすると関係者の前で発表します。大御所が若手漫画家を鼓舞するかのように率先して変化へと向かう姿勢を示すわけです。その挑戦が成功するか失敗するかはわかりません。ただ、その変化のほうに自分を開かないと、それこそ新しいものは生まれない。

これって、漫画の業界に関わらず、働くという現場において、それこそ普遍的な内容だと思うんですよね。僕自身イッパイアッテナに入社して、色々と変化せざるをえない状況を過ごしてきたので、なかなか胸に迫るものがありました。皆さんオススメです!ぜひ!

オダギリジョーもめちゃくちゃかっこいいです(笑)